2月27日(月)19時から、防災会主催「 地域における防災 ~防災の基本的考えと具体的な取り組み~ 」というテーマで講演会を開催しました。
講師に、九州大学大学院工学研究院附属アジア防災研究センター 三谷 泰浩教授をお招きしました。
まずは市民局地域防災課・矢野係長による、講演会の趣旨説明です。
近年の大規模災害では高齢者や障害を持つ災害弱者と言われる方々に犠牲が集中している。しかし、行政の力だけで犠牲者を無くすことは難しく、国は「自分の身は自分で守る『自助』」を呼び掛けている。
とはいっても高齢者や障害者を持つ人にとって「自助」は難しく災害時の避難には手伝いが必要です。一方、国は法律で個人情報提供に同意した人を「災害時行動要支援者」とめています。塩原校区で支援を求める「災害時行動要支援者」は107名です。
大規模災害が発生した時に地域のリーダーである町内会長は、まず自分や家族の安全を確保した上で地域の被災情報を把握することになります。
大雨であれば電話で安否確認できますが、震度6強が予想される警固断層の地震では電話がつながることは困難かもしれません。
町内会長や民生委員は地域で協力できる人に支援をもとめることになりますから、支援を求める人の情報が必要です。それが「見守りマップ」や「個別避難計画」です。
福岡市としては見守りマップや個別避難計画作成のお手伝いをします。本日の講演をきっかけに共助の街づくりを進めていただければと思います。
人によって違う危険性 防災は「リスク」で考える
自然が起こす地震、風、雨で発生するものをハザードと呼びます。日本語では「危険性」です。これが人の住んでいない自然の中で起こったら「自然現象」、人が住んでいる所なら「自然災害」です。
自然災害に対し、防災は「ハザードではなくリスク」で考えます。「リスク」も危険性です。ハザードとリスクどちらも危険性です。どこが違うのか?
ハザードは自然の力が起こす危険性であり、リスクはハザードと脆弱性(もろく弱い性質)を組み合わせた人それぞれの危険性のことです。災害による危険性は人によって異なりますから「リスク」で考えます。
同じ災害弱者でも危険性は異なります。「リスクが高い人を守る」――それが防災の考え方の一つです。
脆弱性は人間の属性(年齢や高齢)だけではありません。
洪水を想定すれば、高層マンションの上階に住む人と1階に住む人、あるいは平屋に住む人では危険度は違います。住まいや場所によってもリスクは異なるということです。それを考えることが防災につながります。
「温暖化」 人間の営みが関係
世界では大雨やハリケーンなどが多く発生しています。
このような異常気象は、温暖化で海底温度が上昇することにより、台風が増加しゲリラ豪雨が発生することが原因と考えられています。温暖化は普通に起こる現象ですが、それを加速化させているのは人間です。人々はそれに対応できていないところに問題があります。
昭和20年の戦後から昭和30年の中頃までは豪雨や台風で多くの犠牲者が出ています。昭和23年の伊勢湾台風では5,000人超。昭和28年には筑後川をはじめ、九州北部を流れる河川のほぼすべてが氾濫、1,000人超の犠牲者が出た。
これは戦後の焼け野原で町が整備されていなかったことが原因の一つと考えられます。昭和30年代の高度成長期以降は人が豊かになり町も整備され犠牲者も減っています。
近年は水で亡くなられる方はほとんどいないくなり、多くの人が亡くなるのは大きな地震や土砂災害によるものになっています。
「日本の降水量」 原因はゲリラ豪雨
日本の年間降水量は1,700ミリ(1年間に降る雨の平均値)。それに比べ、九州は2,300ミリと多いが、年間の降水量は昔からそれほど変わっていません。理由は、1時間で50ミリ以上超える雨が、2000年あたりから上昇しているからです。国交省のデーターによれば2000年は1.3倍から2021年は1.44倍です。
何故?……一年間の雨量は変わっていないが、短時間でたくさんの雨が降る回数が増えているからです。ゲリラ豪雨が増える一方でカンカン照りの日も増えている。雨が降るときはドンと降ってパッと止んでカラカラの天気が続くのが今の流れです。
九州の川は大きな山脈の側にあり東西に流れています。暖かい空気が入ってくると川に沿って水蒸気が発生し、線状降水帯が生まれます。大きな川がある地域は線状降水帯の危険性も高いということです。福岡は渇水で水が少ない分だけ線状降水帯は少ないと考えられます。
「河川氾濫」 都市開発が影響
ここで考えてほしいのは、自然災害の原因は都市開発が影響しているということです。
田んぼは水を吸収し、水を川に流してくれます。田んぼが無くなることによって土地が持っていた水を吸収するという能力が無くなります。昔の都市計画で作られた下水道だけでは容量が持たなくなり、溢れる現象が生じます。
災害が起こる原因の半分は人間が作り出していると言えます。
災害対策の一つはハードード対策です。
ダム、堤防、耐震補強などの構造物を作りますが費用がかかります。いつ必要になるか分からないことに加え、想定外の事象も発生し対応できないこともあります。
これに対して構造物によらないのがソフト対策です。ソフト対策への理解が進めば全体的に被害を少なくすることができます。
ハードによる対策はほどほどにして足りない部分をソフト対策で補う――これが今の方式であり、減災の取り組みです。
情報の価値は人それぞれ
現在は携帯電話やネットでいろんな災害情報が入ってきます。その中で自分にとって必要なものが情報です。情報の価値は人によって違います。
「1時間に50ミリの雨といえばバケツをひっくり返したような雨」という情報が出た時。「自分の所に降ったら行動を起こす」というのが情報であり、この情報(データー)を活用し「自分のアクションに繋げる」ことがソフト対策です。
「警戒レベル4」で必ず避難
行政や市町村は3~6時間前に警報、注意報を出します。それは避難をするための余裕を確保しているからです。この時点で、逃げようとする人はいません。
この情報を耳にした時に、避難所の側に居るのか?逃げなくていいのか?――状況によって行動も変わります。情報をどう判断しどう使うかがポイントです。「警戒レベル4」までには必ず避難することを覚えて下さい。
避難は逃げることが「避難」ではありません。自分の身を安全な場所に持っていくことが避難です。自分の家の安全な場所、ホテルも避難場所のひとつです。人によって独自の逃げ方はあります。それを自分たちで勉強して考えて下さい。
「ポイント」は情報の入手と理解
気象庁のホームページでは土砂、浸水、洪水の3種類のキキクルを見ることができます。「あなたの街の防災情報を」に自分の町を登録しておくと、キキクルの情報や避難指示の情報が携帯で見ることができます。
ハザードマップよく目にするのは洪水、河川氾濫、浸水、水害を表現した「洪水ハザードマップ」です。
水の深さ50cmは膝まで、2mでは1階の軒下、3mなら2階の床下まで浸かります。大事なのは「流速」です。流速が早いと膝下50cmになれば大人でも歩くことができません。敷地から道路に出た瞬間に両側があると足を取られることになります。
「計画作成」 多様な考え方で
行政による公助だけで被害を減らすことは不可能です。公助、共助の「合わせ技」が必要です。国は地区住民が地区の特性に応じた「地区防災計画」を作ることを推奨しています。
自分の地域の「どこが危険で災害が起きた時に何をするのか」、防災訓練や防災活動でそれを決めるのが地区防災計画です。専門家、防災士、大学などもお手伝いします。これを機会に取り組んで下さいというのが結論です。
計画作成は町内会や校区など行政の区界こだわらず、マンションだけというのも考えられます。計画に参加する人は多様な団体や組織、スポーツ団体なども加われば、よりよいものになります。行政のサポートも大事です。
文 自主防災会 会長 川添繁美