2023年7月31日月曜日

「避難行動要支援者支援名簿の活用について」講演会

7月22日(土)10時から、一般社団法人 地域安全協会 代表理事の山本一先生をお招きし「避難支援行動要支援者名簿の活用」と題した講演会を開催しました。 

 
講演会には避難行動要支援者の支援に携わる自治協議会各種団体会長、民生委員、社協、防災委員、地域の支援実施者など46人が参加。支援計画の手順や問題点を学びました。


被害は高齢者や障害者に集中

「災害は忘れたころにやってくる」と言われていたのが、「災害は忘れる前にやってくる」に代わり、最近では「災害は毎週やってくる」――時代になってきた。原因は地球温暖化による気候変動で災害の激甚化。線状降水帯も頻繁に発生している。

災害で亡くなる人は高齢者や障害を持つ人に集中している。5年前(平成30年)の西日本豪雨。兵庫県倉敷市真備町では70歳以上で亡くなった人の割合は約80%。

亡くなった高齢者の42人は自宅の1階で溺死。半数の21人は2階建てに住んでいたにも関わらず自力で2階に上がることができなかった。

高齢者は「逃げ遅れ」だけではない。「逃げられない」。こういった人たちが「要介護者」であり「要支援者」である。

東日本大震災では女性の死者が男性より千人多かった。妊娠している、幼児がいる、介護をしている――要支援者は高齢者、障害者だけではない。

 

「災害時の避難支援」 地域で

昭和34年の伊勢湾台風を受けて「災害対策基本法」ができた。その後、東日本大震災などで改正が行われ、「個別避難計画」を作ることになった。

行政は「避難行動要支援者名簿」を自治会、民生委員、地区社協等に配布して支援計画作りを地域に委ねた。 

計画は無理なく 毎年更新

計画作りの前提は、「支援計画は絶対に助けに行く」というものではない。自分と自分の家族が無事で「余力があったら助けに行く」ということであり、「誰も助けに来ることができない場合は計画通りに逃げて下さい」ということだ。

まずは、可能な範囲で避難計画を作成。健康状態などを見直して毎年補完する。浸水想定区域に住む介護3,4,5の人を優先し、最も支援を必要とする人で介護度が高い人の計画から作り始める。

 

<計画を作るポイント>

・要支援者が多い中で、誰から計画を作るのか?

・計画を作るための聞き取りの方法。

・逃げる時の避難支援方法。

・支援実施者をどうして集めるか?

・避難所への道順、要支援者の健康状況など、役員が交代しても分かるようにする。

 

<聞き取りの内容>

・本人の情報――名前、生年月日、住所、身体の状態(要介護など)

・家族の情報――同居、1人暮らし、2人暮らし、子供や親せきはの所在地は?

・医療情報――病院や施設。飲んでいる薬。デイサービス等の使用の有無

 

<聞き取りの留意点>

・顔見知りの民生委員なら相手も安心できる。

・高齢の人は勘違いも多い。2人きりを避け複数名で対応する。

・相手が女性の場合は男性ばかりでは行かない。

・高齢者は病院名や薬、健康状態が分からないこともある。家族の同席を。

・できればケアマネージャーや人ホームヘルパーさんの同席も。

・高齢者はハザードマップが理解できない。ハザードマップの見方を教える。

・計画ができたら、本人や家族に見てもらい、最後にサインしてもらう。

 

<支援実施者のポイント>

・昼、夜、日・祝日……災害はいつ発生するか分からない。

・車いす、寝たきり、要支援者の状態によって支援者の必要人数も変わる。

・支援者はできるだけ顔見知りの隣人。隣組の人が望ましい。

・支援実施者が不在、被災することもある。支援実施者は複数名で。

 

 

<医療処置が必要な人は専門家に>

酸素吸入などが必要な避難者には病院や福祉避難所や福祉施設があるが、地域で直接交渉することは難しい。収容能力もある。ケアマネージャーが優先順位を付けて避難所に案内することもあるので、聞き取り時のケアマネージャー同席が望まれる。

 

<隣人関係が防災のカギに>

東西日本大震災で助かった人で、隣近所の人から「一緒に逃げようと言われた。顔見知りの人が声かけてくれた」からと答えた人が多い。「おはよう」「ただいま」……そんな隣人関係が防災に繋がる。地域行事への参加、日常の声掛けは見守りのための仕組み作りでもある。

 

<個人の負担は最小限に>

一人の要支援者に複数の支援実施者を付けるためには、要支援者の何倍もの人数が要る。支援実施者を増やすための研修会も欠かせない。

その時に気を付けたいのは、「あれもこれも」――面倒くさいことは避け、「これだけはやって」という内容に絞ること。

・災害が発生した時に「大丈夫ですか?」と安否確認をする。

・避難が必要だったら、避難所に行ける人だけ一緒に逃げる。

・高齢者は天気予報が理解できない。「川が氾濫すると言っている」などを伝える。

ここで大事なことは「自分と自分の家族を優先。余力があったら手伝う」――ということを伝えることだ。手伝うガードルを下げると支援を引き受けてくれる人も増える。 


避難支援者を増やすための工夫

<校区外の人の活用も>

支援実施者になっても仕事場が遠く平日や昼間は居ないことがある。逆に他の地域から来ていて平日や昼間だけ居る人も。この人たちは校区外の人だが昼間の災害、平日の災害であれば一緒に避難することになる。

校区外の人にも声を掛ける。地域の事業所と協定を結び手伝ってもらう方法もある。

 

<避難の時間帯をばらける>

みんなが一緒に避難すると、支援者が足りなくなる。大分の日田では、線状降水帯などが予測される時は「レベル2」で早めに避難する。「レベル3」と分けることによってより多くの人が避難できる可能性が出てくるからだ。

問題は、レベル2では避難所が開いていないこと。解決策の一つは、レベル2で避難する人はケマネージャーに任せて福祉施設に行く。地域の人の手を借りないで優先的に避難させることもできる。 

◇◇最後に◇◇

避難計画で重要なことは①避難の優先順位をどうつけるか?②聞き取りで何を注意するのか?③支援の時の配慮は何か?④支援者をどうやって増やすか?――です。

防災は「普段の備えと地域の輪」の二輪で進みます。高齢者も若者も障害を持つ人も、声を掛け合い助け合い、災害による犠牲者を出さない街づくりをして下さい。

文 川添 繁美